雨ニモ負ケテ

5ab7f00b.jpgお蝶夫人♪はかなりの筆まめで、自分の本棚の引き出しに、たくさんのカードやハガキ、封筒、便せんなどを揃えている。私はよくその中から拝借して、友人や恩師へ便りを書くのだけど、最近ちょっと面白い絵ハガキを発見したので紹介する。

それはズバリ、お義母さんからいただいた星野富弘の詩画集絵はがき。星野さんの作品は以前から大好き。独特の温かみと、飄々とした感じ、そして根底にある深い愛と癒し。もちろん、頸椎損傷からの肢体不自由につき、口に絵筆をくわえて描いているという重い真実がある。背景に厳しい現実があるが故に、飄々としたユーモアなど描かれていると、何というか、自分の小ささを痛感してしまう。


本題に入る。画像をクリックすると大きくなります。星野さんの宇宙が、余すところなく表現されています。たんと味わってください。

雨ニモ負ケテ 風ニモ負ケテ

夏ノ暑サニモ負ケテ

東ニ病気ノ人ガイテモ

西ニ困ッテイル人ガイテモ

ナニモシナイ

丈夫ナ身体ニナリタクテ

健康食品ニ気ヲクバリ

ウマイモノガ好キデ

マズイモノガ嫌イ

オカネモホシイ

着物モホシイ

ソンナ私ガ仰向ケニネテイル
これで、ごろっとマンゴーの絵だからなぁ。この自由さにはかなわない。天衣無縫とは、このことを言うんだろうね。マンゴーならそんなことも言うかなぁ、なんて妙な想像もしたりする。病人がいても困っている人がいても「何もしない」というのが、本当はタブーなんだけど、なんか可愛くて許せてしまう。その不思議な感触が、とても心地よい。・・ここまで書いて、ハッとした! これ、漠然と「雨ニモ負ケズ」の軽いパロディーとして書いてあるんじゃなくて、星野さん自身のことなんだ! 「そんな私が仰向けに寝ている」という一節がそれを表している。そういう目で見ると、この詩はもしかして「自嘲」のような意味合いなのかもしれない。煩悩によろめく凡庸で役立たずの自分を「しょうがないか」みたいな。でも、熱帯系の果物がいきいきと描かれていて、微塵も拗ねたところがないのが素晴らしい。実にあっけらかんとした自嘲である。そうした「自嘲」はもちろん、この絵はがきを手にする人の心にもあるわけ。だからこそ、湿っぽくない星野さん一流の表現で、その人は救われるのだ。そんな効用が、この絵はがきには託されているような気がする。マンゴーのような星野さん、万歳(笑)。というわけで、ちょっと味わい深い絵はがきを紹介しました。