ナイチンゲールの沈黙/海堂尊

「ナイチンゲールの沈黙」(海堂尊著)を読んだ。新刊はほとんど読まない私だけど、この著者の処女作「チームバチスタの栄光」が予想以上に面白かったので、第二作も読んでみた。結果は・・今イチだった。なんというか、読後の満足感は前作ほどではなかった。消化不良。原因はいろいろあるだろうけど・・登場人物が多岐にわたり、前作よりも焦点がぼけている。シリーズ化を目論んでそうした事態になったと思うけど、あまり成功しているとは思えない。多すぎる登場人物をこなし切れず、まとまりのない感じ。不満が多い本作ですが、いちおう読了したので感想を記しておきます。


まず題名の「ナイチンゲール」には、ふたつの意味が仕組まれている。ひとつは看護婦の象徴としてのいわゆるナイチンゲール。もうひとつはNightingale(夜啼鳥)、つまりサヨナキドリという鳴き声の美しい鳥を意味する。天性の歌声を持つ看護師、浜田小夜(さよ)のネーミングは、そこからきていると考える。少し脱線するけど、夜啼鳥としてのナイチンゲールをコンセプトにしたうたをふたつ紹介しておく。

#真夜中のナイチンゲール(竹内まりや)



#Nightingale(Norah Jones)



つまり、医療をメインテーマとしながら、心を揺り動かす力をもつ「うた」が本作のサブテーマである。その二本柱を軸に、濃いキャラの登場人物が様々に関わり合っていく。

海堂さんの描く細部は、ときに心に深く刻まれる。ひとつだけ抜粋してみる。白血病で三度の骨髄移植に失敗し死を待つしかない少女、杉山由紀と両側性網膜芽腫で眼球摘出から失明するしか道のない少年、牧村瑞人。この絶望に包まれた二人の切ないやりとりは胸を突かれた。

「何かして欲しいことはない? 俺にできることなら何でもする」「自分の命を粗末にする人からの贈り物には何の価値もない。人は自分が一番大切にしているものを、大切な人への贈り物にするの。あなたの大切なものは何? それを私にちょうだい。でも、きっとあなたには本当に大切なものがないのよ」瑞人は黙り込む。「だったら、私の代わりに生きて。私には他に頼みたいことなんてないからね」

この後、瑞人は白いワンピース姿の由紀を連れて病院を抜け出し、海辺の風景を見せてやろうとする。その辺りの描写は胸キュン。やがて由紀は他界し、瑞人も両方のの眼球を失うが「物を見るのは眼じゃなくて、心だよ。由紀さんが教えてくれた」というコメントを残す。

最後にひとこと。海堂さんは病理医なんだけど、病理の仕事の片手間に執筆活動をしているんだろうか? そうだとしたら、とても残念なことだ。まるちょう的には、即刻転職して作家活動に専念して欲しい。それだけの資質を十分に持った人だと思うから。本作はどうしても「ごった煮」の感が否めない。各々の細部は良いが、その結びつきが今ひとつ。構想の段階で不必要な物を削ぎ落とす、あるいは作品としてソフィスティケートする「あと一押し」が足りなかったように思う。まぁ、海堂さんに届くとは思いませんが・・ちょっともったいない気がします。

以上「ナイチンゲールの沈黙」の感想を記しました。