羊をめぐる冒険/村上春樹

「羊をめぐる冒険」(村上春樹著)を再読した。10年ぐらい前に読んで、もうひとつ自分の中でパッとしなかった作品だ。読後しばらくして、鴻上尚史という演出家が「これは『青春の終わり』を見事に描いた作品だ」と言ってるのをどこかで見かけた。でも、その時は、やはりパッとしなかった。・・今思うに、その頃の自分は、まだまだ青春の最中に生きていたんだと思う。10年経過した今、鴻上さんの言葉の意味が、おぼろげながら分かる気がした。


作中に、こんな言葉が出てくる。

「あなたは、自分の半分でしか生きていないのよ」
つまり、青春を生きるとはそういうことだ。では、青春の反対は?大人になることである。このふたつの項目について、連想されることを列挙してみる。

<青春>

粗野、夢、思いつき、過ち、弱さ、

結婚生活をやめる、反抗、無駄、不完全

<大人>

洗練、現実、計画、正しさ、強さ、

結婚生活を継続する、支配、精緻、完全
こうしてみると、早く大人になった方が賢いし、得であるような気がする。得?もちろん、損得で言えば得に違いない。しかし、本当にそれでいいのか?人生って、損得だけで動いてるんじゃないからね。

作中に黒服の恐ろしく頭の切れる男が登場するが、これは極めて大人的なもののメタファーである。この男の心の中には「青春」はひとかけらも残っていない。こんな存在には、凡庸な私たちは、全く太刀打ちできない。情けないほどにね。でも、そういった支配的な存在に対する反感を、村上春樹はさりげなく描いている。

この黒服の男の対極が、鼠である。主人公の旧友です。鼠は、大人になることが結局できず、その宿命的な弱さの中で死ぬ。弱さとは、つまり青春です。鼠は、自分の弱さを十二分に自覚しながら、それから脱することができなかった。しかし、最後は主人公を助けるために、強いプライドを持って「大人」を象徴するものと対決した。その場面は、村上春樹一流のハードボイルドタッチで、凄く格好いい。男は、やっぱこうあるべきだよねぇ。弱くても、旧友のために、そして自分のために、自分より強いものと精一杯闘う。格好いい!

さて最後に、この作品で私が受け取ったメッセージとは・・ 

「強くなるのは間違っていないが、

自分に内在する弱さを否定してはいけない」
ということ。真摯に生きるということは、強さを持ちながら弱さも忘れないということである。しかし、実際そのように人生を生きるということは、綱渡りのようなものだ。だからこそ、生きるということは難しいんだろうと思う。最後はちょっと難しくまとめてみました(笑)。