ムーンライト・シャドウ/吉本ばなな

「ムーンライト・シャドウ」(吉本ばなな著)を読んだ。7/28の日記で「もっと成熟した吉本ばななが読みたい」などと、生意気なことを言っていたのだが・・ 確かに「キッチン」を読んだ時点では、そのような感想だった。しかし、それに続く「満月」と「ムーンライト・シャドウ」を読んだ後では、この作家の並大抵ではない力量を見せつけられることになった。吉本さん、すいません。私が悪かった。m(_ _)m

この三つの短編に共通するのは、身近な人の死。生々しい喪失体験が、克明に綴られる。私の推察するに、吉本さんは、実際にそうした喪失体験を経験しているのではないか。それも、相当苛酷なやつ。おそらく、一度は絶望の淵に落ちないと、これだけ気持ちの入った仕事はできないはずだと思う。


三編の中で、私は一番「ムーンライト・シャドウ」が好きだ。「ほぼ日刊イトイ新聞」でも、絶賛されている。あらすじとしては、こんな感じ。

最愛の恋人を亡くしたさつき。死ぬほど愛し合っていたのに・・ その息の根が止まるほどの喪失感が、切なく語られる。健気に生きるが、どうしようもない悲しみから脱することのできないさつき。彼女のキャラは「キッチン」のみかげとよく似ている。他人を傷つけない「善」の性質です。たぶん、吉本さん自身が、そういう人なのではないかと推察する。そんな暗い生活の中で、うららという女性に出会う。彼女も、恋人と変な形で死に別れた人。しかし、心の中の陰惨な暗さを微塵も表に出さず、厳しい自分の運命と闘っている。その清々しい強さに、さつきは「闇の中の太陽」を感じる。そして、クライマックスの「七夕現象」。かつての恋人との束の間の再会に涙するさつき。その心地よい涙の後、「もっと、強くなりたい」という祈りが、彼女の中に芽生える。

「七夕現象」の場面は、はっきり言って泣けます。最初読んだ時は、周りに人がいた関係で、泣くのを我慢した。だから、ちょっと損した気分だった(笑)。昨日、自室でこっそり一人で再読して、思いっきり泣いちゃったよ。いや~、心地よい涙でした。堪能した(笑)。そうそう、このシーンにはBill Evansの「Quiet Now」がBGMとして最適です。超お薦め!(笑)「七夕現象」なんてあるはずないんだけど、読んでると、真偽なんてどうでもよくなってしまう。そう思わせる説得力が、この作品にはあります。

この作品は、また10年後ぐらいに再読したい。何度も読み返したいと思わせる作品です。今度は、吉本さんの長編を試そうかな?