最近、YouTubeの「Court Cam」というシリーズに、少しハマっている。法廷にカメラが入って、裁判官と被告人のやりとりを活写する。日本ではあり得ないコンセプト。もちろん、全て英語なので、あくまでも「雰囲気を味わう」といった趣きなのですが・・ 法廷内の人々の表情で、ある程度のことは読みとれる。英語だって、少しはわかるし・・ その中で「おお、これは!」という動画にぶち当たった。まずはご覧ください。問題のシーンは45秒くらいからです。
裁判官は女性でMindy Glazer。被告人はArthur Booth(49歳)。career criminalということは「犯罪を常習的に犯して、それによって生計を立てている人」である。具体的には、強盗、重窃盗、とんずら、公務執行妨害など。要するに、社会のクズである。しかしなぜかこの裁判官は、Booth被告に対して親しみのある応対をする。
「ひとつ訊きたいことがあります。ノーチラス(マイアミ)の中学校に行ってました? 」「えー、マジで?」「ここであなたに会うのは残念です」「あなたにいったい何があったんでしょう?」「なんてこった!(泣き崩れて)」「みなさん聞いて、この人は中学校で一番ステキな少年だったのよ」「なんてこった!(ただひたすら泣く)」「彼は学校でいちばんの子だったわ。よく一緒にサッカーをしていた、みんなで。そして今、彼になにが起こったのか確かめる。とても残念だわ・・」「マジかよー(頭を抱えて泣く)」
Booth被告はかつて、未来を嘱望された生徒だった。しかし、ドラッグに溺れ、ギャンブルにはまり、軽犯罪に手を染めていった。結果として、何度も受刑することとなった。
Glazerさんは真顔でこう付け加える。最後に優しい微笑をたたえて。
あなたならここから抜け出せるはずよ、がんばって。そして必ず、犯罪のない生活を送ってください。
Glazerさんはえこひいきなしに、保釈金を43000ドルとした。判決は懲役10ヶ月、そして薬物治療施設送致となった。
裁判官と被告人という、ほんらい厳粛な関係性を想う。これは外来の医師と患者という関係性についても言える。上位者は、脱線せずどんどん仕事を進めていく権利がある。この日のGlazer裁判官も、たくさんの被告人をさばいていく必要があった。でも、かつての友であるBooth被告に対しては、どうしても一言いっておきたかった。そうした「ひと手間」は、まさにプロの仕事である。こうした時にコントロールしながらも脱線できるかどうか。場が乱れるのを恐れず、簡潔に言葉を投げられるか。Glazerさん、大したもんだわ。かっこいい。
Booth被告は、かつての自信に満ちた無垢な少年時代を、瞬時に思い出しただろう。そうしてまた瞬時に、現在の自分の境遇を恥じただろう。あの涙は、羞恥、自己嫌悪、悔悟、あるいは純粋に悲嘆だったかもしれない。Glazerさんと個人的な思い出もあったのかもしれない。49歳、更生できない年齢ではない。Glazerさんの祈りを、真摯に受け止めて欲しい。
Glazerさんは上に昇り、Boothくんは悪の道に堕ちていった。悪のブラックホールは青年の心を惹きつける。重力という魔は、常に人間を引きずり下ろそうと、手ぐすね引いている。法廷における、対極的なふたりの邂逅。これを運命と言わずして、なんだろう。後日譚の動画を、最後に載っけておきます。Booth、ガンバ!