祖母のしつけ・・「人間交差点」より

老いには二種類あるような気がする。つまり、濁るのと、執着するのと。前者の典型は「呆け」であろうし、後者は「頑固」ということになる。老いは誰にもやってくる。「呆け」であろうが「頑固」であろうが、老人にリスペクトを取らない人を、僕は信用しない。人生、因果応報とはよく言ったものです。とりあえず、あらすじから。

スクリーンショット 2020-08-11 22.25.13

美幸はバリバリのキャリアウーマン。男勝りに、ガンガン仕事をする。もちろん男は寄ってこない。5歳のときに両親を交通事故で失った。その後、祖母が彼女を引き取り、厳しく育てた。その厳しさは尋常ではなく、両親を失った悲しさよりも、あまりに厳しい祖母のしつけに何度泣かされたか分からない。

スクリーンショット 2020-08-11 22.26.52思春期にその怒りが一度爆発した。美幸が男子学生を部屋に呼んで話していると、祖母が美幸を平手打ち。「一人前のことがしたかったら、自分で稼ぐようになってからしろ!」と。理屈も何もなかった。間違っていようが正しかろうが、祖母は絶対だった。その祖母に対抗するには、強くなるしかなかった。


スクリーンショット 2020-08-11 22.27.12祖母は重症の心疾患を持っていた。治る見込みはなく、医師は入院を勧めたが、祖母は拒否。在宅で過ごすことになる。美幸は初めての長期休暇で祖母の世話。美幸は祖母のことを疎んじるわけではなく、ちゃんと長生きしてほしいと思っている。

ある時、祖母が「男・・いないのか?」と美幸に尋ねる。「バカじゃないの。男なんていませんよ。クスクリーンショット 2020-08-11 22.27.36ニャクニャした男相手にしているより、仕事の方がよっぽど楽しいわ」と返す。「私だってもっと女らしくなりたいわよ! だけど、どこにそんな余裕があるのよ。私が結婚できなかったのもおばあちゃんがいたからでしょう!?」泣いて二階に駆け上がる美幸。その夜、祖母は死スクリーンショット 2020-08-11 22.27.55んだ。発作を抑える薬をテーブルの上に置いたままで、祖母は息絶えていた。

後日、美幸は考える。すべては美幸の人生を想う祖母の策略だったのだと。まず、入院での精査加療の費用を意味のないものと断じて拒否した。美幸の経済的負担をやわらげるための行動。長期休暇を取らせたのも、仕事だけに振り回されていた美幸の人生を考え直させたかったのだ。そして自分が美幸の人生にとって足枷となっていることを悟り、祖母は発作を抑える薬を服用しなかった。それは事実上の自殺だった。祖母は自らの死をもって、美幸へのしつけを完了したのだ。

スクリーンショット 2020-08-11 22.28.21
 

この祖母は「頑固」の究極である。しかし、そのベースに美幸を一人前の人間として人生を歩ませたいという切望があるように思う。祖母が、仕事であくせくする美幸に諭す言葉。

おまえは大切な人生を棒に振っている。もっと有効なことに金を使って人生を生きろ。仕事なんて、おまえが思っているほど大したもんじゃない。

この言葉、賛否両論あると思います。ただ、一面で真理を含んでいると思う。仕事に浸食される日常、スクリーンショット 2020-08-11 22.28.44忙殺、これ如何に? もちろん順位で言えば、仕事は一番だ。しかし、それ一色になってしまっては、何のための仕事だろう? 仕事の「代役」は、わりとできちゃうものです。長期的に見れば、自分でなくても全体の仕事は回っている。そんなもんです。

本当の人生とは「自分でなければ他に務まらない責務」を逃げないことじゃないでしょうか。それは親子であったり、夫婦であったり。それはもしかして「腐れ縁」だったりするのかもしれません。でもそこでは、確かに「代役」はいないのです。美幸の場合は「もっと恋愛しろ、今をもっと楽しめ」と、スクリーンショット 2020-08-11 22.29.06祖母は言いたかったはずです。

歳をとったら、誰しも「呆ける」。意志の濁りは精神的老化の最たるものであって、肉体的老化以上にやっかいだったりする。作中の祖母は、最期まで自分の意志を貫いた。孫の人生ために命をかけたのだ。実際にこんな老人はいるはずもないけど、こんな「潔すぎる」老人像って、ちょっと憧れてしまう。「精神の濁り」は人類の敵、とまで言ってしまおう。だからこそ、ちょっと疎んじられながらも「頑固じじい」がいいのかもしれん(笑)。以上、漫画でBlogのコーナーでした。