びっくりしたなぁ~、もー(まるちょう診療録より)

お待たせしました。ふたつめの「びっくらこいた症例」を語ります。50代の男性で、主訴は心窩部痛。一昨日に生ビール二杯と焼酎3合を飲んだ。昨日、胃が痛くなって夜中も眠れなかった。嘔気あり、発汗あり、熱なし。毎日、焼酎を2合飲むとのこと。とにかく胃が痛いのでなんとかしてほしいと。なにも食べられない。診察では、 心窩部に圧痛著明。わりと広い範囲と感じた。とりあえず、胃潰瘍とか膵炎とか、鑑別にあがるか? 腹部CT、採血、点滴(制吐剤入り)、ソセゴン筋注で。

点滴と筋注が終わっても、患者さんは痛そう。痛みの程度は10 → 7 くらいに軽減。腹部CTでは、胃体上部から噴門部にかけて胃壁の肥厚を認める(と、その時は思った)。それ以上に「きなくさい」と思ったのは、胃の外に脂肪織の混濁があるように見えたこと。つまり、腹膜炎の可能性ね。採血は著明な好中球増多、アミラーゼ正常値、CRP6台。いよいよ腹膜炎が怪しい? もう一度診察をお願いして、心窩000183635部をタッピングしてみる。陽性である。うーん、、(Webから拾ってきた「胃壁肥厚のCT像」を載っけておきます)

もう一度よく話を聴いてみる。高校教諭で、本日が異動の初日らしい。いきなり初日に休んでしまい、校長先生にも挨拶できていない。今は一人暮らしで、子供さんは三人いるが、みな独立して遠方におられる。奥様は数年前?に亡くなったらしい。ややセルフ・ネグレクトが入っているか。ただ、今年の二月に検診で胃透視をして、問題なかったらしい。あれ?と思った。悪性フラグ出まくりなのに、二月にNPならば、いきなり胃癌になることはないか。

正直、自分の中で絞れなかった。重症胃潰瘍の穿孔 → 腹膜炎 とか? いずれにせよ、うちでは手に負えない。早急に胃カメラが必要と思われ、C病院に転送した。学校に電話をかけていただき、直接校長先生とお話しした。「腹膜炎になっているかもしれず、入院が必要です」と。

さて、この患者さんは、その日のラスト。C病院での「結論」をチェックできたのは、二日後。二日後のカルテをさっと見ると、もう食事がでている。あれ? 手術してないの? 俺の思てたんとちゃう? 造影CTが実施されていて、胃壁全体の肥厚が描出されていた。もちろん胃カメラで、最終的な結論が出る。その前の鑑別として、スキルス、AGML、アニサキスと記載されていた。AGMLは大いにありそう。スキルスはさすがに・・? アニサキスで全体が肥厚する? 僕の中ではAGML推しだった。ただ、何が原因でAGMLになったかがハッキリしない。

それでは答えを見てみよう。GFの所見。胃内はびらんや発赤、浅い潰瘍が散見される。ミニマルな出血もあり。AGMLでいいと思うが? 大きな潰瘍はない。もちろん癌もなさそう。なんでAGML様になったんだろう? 不思議に思っていると、でました。白い糸のような物体が。アニサキス、ここにあり。ぷっくりと太ったアニサキスが胃壁に咬みついていた。「ええ~、マジかよ~!」と画面をみて小さく叫んでいた。消化器科の先生が、早速鉗子で虫体をつまみ出した。基本的に、これで治療は完了。二日後に食事が出されていたという流れの裏には、こうした「結論」があった。

一番感じたのは、スキルスとか悪性疾患でなくてよかったということ。個人的にはもっとアルコールに関連した病変を考えていた。アニサキスの炎症は、I型アレルギーにより引き起こされると言われる。この患者さんの過去カルテを調べると、アレルギー素因が指摘されていた。エビ、タコ、イカ、カニを摂取すると、重篤な症状が出ると。そして気管支喘息の既往あり。一般の方は「アニサキスに噛み付かれた痛みでのたうちまわる」と勘違いしやすい。あくまでも「アレルギー反応」なんですね。そこんとこ夜露死苦。この方は、アレルギー素因がもともと半端なく、重篤な反応が出てしまったと思われます。異動の初日に、えらい「事件」でした。以上「びっくらぽんな症例」を二つお伝えしました。