おかあさんについて・・「家族の食卓(1)」より

ネタが少ないと言いつつ、またいい短編をみつけたので「漫画でBlog」やってみます。一度は読んでいるはずなのに、ふと読み返してみると「あれ、こんなに面白かったんだ!」と再発見するなど。自分をとりまく状況が変わっていることにも関係するんだろうか? つまり家族の中で、夫として父として生活しているという。この作品を初めて読んだのは30代の独身時代だったか。その頃と比べて感情移入の度合いは、当然のことながら「月とすっぽん」ということになってくる。まずは、あらすじから行きましょうか(本作は、小四の女の子が語り手になっています)。

わたしの母はふつうのおかあさんです。今年38歳になります。わたしより元気なくらい。ファミコンスクリーンショット 2018-06-25 22.06.36が大好き。あ、わたしは小学四年生のマミといいます。兄のヒロシは中二です。少しボーッとしていて小さな頃からいじめられっ子。学校の成績もあまりよくないらしい。今日も学校の先生から電話がかかってきて、よくない連絡があったみたい。そうしたとき、母はいつも少スクリーンショット 2018-06-25 21.51.08し兄に説教をして・・ そして最後に笑い飛ばす。

父の遅い帰宅だ。父はビールを飲みながら会社のことを愚痴っている。母はうんうんと聴いて「笑っちスクリーンショット 2018-06-25 21.58.30ゃえ笑っちゃえ、そんな部長アホな奴って」と笑い飛ばす。いつだって笑い飛ばす。母は切り出す「ヒロシなんだけど、今の成績だと公立はどこも無理なんだって」。父はちょっと目をむいて顔をあげる。「あ、でも、ま、いいか! 私立もあるし」アッハッハと笑い飛ばす。

翌日。母はゴミ出しで近所の奥さんとしゃべっている。ヒロシが横を通るが、挨拶しない。「あ、ヒスクリーンショット 2018-06-25 21.51.44ロシくん、ごあいさつは? おはようは?」と言葉をかけるが、ヒロシは「朝からヘラヘラ笑ってんじゃねえよ!」とにらみつける。次に父が家を出てくる。「夕べのことだけスクリーンショット 2018-06-25 21.52.02ど・・」「はい?」「ヒロシのこと、もっと真剣に取り組まなきゃいけないんじゃないか? 笑って済ませることじゃないだろ!」と母を叱責する。「子どものことはおまえに任せてあるんだから」「はい・・」と真顔になる母。

わたしはその日の四時間目に熱を出して早引け。おかあさんはすぐに布団をしいて、やさしく世話をしてくれた。おでこには氷。「おかあさん・・ おかあさん、毎日たのしい?」「ええ? そりゃ、楽しいわよ。おとうさんが働いている間、ファミコンしてラクさせてもらってるし。二人の子どもはかわいいし」

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わたしは母の顔を見ながら思った。「おかあさんは明るくふるまっているけど・・ おとうさんもおにいちゃんも好き勝手なことばかり言って・・ ああいうのって結局、おかあさんに甘えてるってことなんじゃないかな?」「おかあさんは誰かに甘えたくなったらどうしてるんだろう?」などと考えてるうちに、私は眠ってしまった。

スクリーンショット 2018-06-25 21.52.57「・・さん、おかあさん!」わたしはふと目を覚ました。横におかあさんが眠っていて、寝言をいってる。スクリーンショット 2018-06-25 21.53.15「おかあさんっ!! あたしだってがんばっているのに・・!」母は幼い子がイヤイヤをするように、小さく頭を振った。枕を涙でぬらしながら、寝ている母。呆然とながめるわたし。

熱がさがって、わたしは古いアルバムをひろげる。そこにはおばあちゃんに甘える、子どもの頃のおかあさんが写っている。「おばあちゃんに電話しようか?」おかあさんはちょっと戸惑うけど「そうね、スクリーンショット 2018-06-25 21.54.07おかあさんも急におばあちゃんの声、聞きたくなってきちゃった」と。「もしもし、おかあさん? 別になんでもないの・・ かわったことは、なんにもないんだけどね・・」

こういうお母さん、いるよね~ 息子のファミコンで遊ぶというのも、僕なんかに言わせると「邪心のなさ」じゃないかって。とても素直で自然で愛らしいお母さんだと思う。成績の悪い息子や仕事から帰って疲れた夫に「アッハッハ」と笑い飛ばすのも、それは相手を思い遣ってのことだ。一種の愛嬌である。笑いに昇華しようと懸命の努力をしているのだ。それをなんだ、息子と夫は冷たい目でディスりやがって!

なんという不幸だろう! ・・でも、こういうことって日常で数え切れないほどあるよね。まるちょうという人は、このお母さんみたいな良い人が貶められるのは、いちばん悔しい。大げさな言い方したスクリーンショット 2018-06-25 21.53.27ら「裸の善がそのむき出しの心に冷や水を浴びせられた」みたいな。こういう「事故」は、僕もたまに経験します。好意でちょっとボケてるのに、精密なお仕置き(決してツッコミではない)を加える、非情な面々。

それにしても、救いは小四のマミちゃん。語り手が小四の女の子というのが、とても可愛い。世界の矛盾について、素直な観察をしている。「おとうさんもおにいちゃんも好き勝手なことばかり言って・・ ああいうのって結局、おかあさんに甘えてるってことなんじゃないかな?」 そうだよ、その通り、甘えてんねん! 息子と夫は、お母さんを「掃きだめ」にしている! 自分の不快感とか怒りとか違和感とかを、よく考えもせず、お母さんに投げつけているのだ。思考停止というやつです。

そしてマミちゃんの鋭い洞察。
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おかあさんは誰かに甘えたくなったらどうしてるんだろう?
本作ではいちおう、お母さんのお母さん(おばあちゃん)に甘えるということで、収束している。それはひとつのハッピーエンドとして、構わない。これは短編だし、ややこしいことをぐだぐだ描けないだろう。「落としどころ」というのは必要である。でも・・まるちょう的な意見を記すとしたら、次のようになる。

本当の独立した大人であれば、どこにも甘えは許されない。痛みや苦しみ、つらさは、全部自分の中で処理、解除しなければならない。なんとならば、独立した大人とは孤独であり、その人が観ている世界は常にハードボイルドだから。

こんなこと小四のマミちゃんに言ったら、目を回すだろうね。でもマミちゃん、それが真理なんだよ。次第に甘えが許されなくなる世界、それが大人の世界。小学生は知らなくていいけどね。むしろ小学生は、しっかり甘えること。子ども時代にちゃんと甘えられた人が、大人のハードボイルドを堪え忍ぶことができるのです。最後はちょっと毒々しくなりました。以上「漫画でBlogのコーナー」でした。