近況・・P.Metheny Unity Groupコンサートに行ってきた(2)

さて「Unity Group」の前身となる、アルバム「80/81」のメンバーを振り返りたい。当時、パットを含む五人のメンバーがいた。でもすでに三人が鬼籍に入っている。

デューイ・レッドマン(ts) 2006年没(75歳)
マイケル・ブレッカー(ts) 2007年没(57歳)
チャーリー・ヘイデン(b) 2014年没(76歳)

マイケル・ブレッカー(Michael Brecker)の早すぎる死が目立つ。彼とパットは、いわゆる「心友」というやつで、Unknown「80/81」のアルバムジャケットをみても、彼だけが「MIKE」と愛称で記されている。だからこそ、2005年6月に骨髄異形成症候群(MDS)と診断されたときは、相当にショックだったと思う。骨髄移植により、一時的に回復したものの、2007年に白血病(AML)を発症。帰らぬ人となってしまった。しかし彼は死の二週間前まで、病室でレコーディングを続けた(「聖地への旅」というラストアルバム)。もちろん、パットはそのアルバムに参加している。当時、世界最高峰と評されたサックス・プレイヤーの早すぎる死。パットはそこから何を感じとり、学んだのか。

まるちょうは、2005年にもパットのコンサートに行ったことがある。もちろんマイケルがMDSを発症する前だ。その時は「The Way Up」というアルバムをひっさげての世界ツアーだったと思う。この作品は、いわゆる「組曲」のスタイル(有名なのはコルトレーンの「至上の愛」)で、長くて緊密な演奏が要求される。要するにタフな楽曲なんですね。でも僕は、正直あまり楽しめなかった。唯一、アントニオ・サンチェスのドラミングの凄さだけが、印象に残っている。タイトルからして「上への道」だもんね。当時51歳のパットは「俺はまだまだ上を目指すんだ」と意気込んでいたと思う。でも、今から考えると「ちょっと肩の力が入りすぎ」だったのかもしれん。

コルトレーンは40歳で死んだ。エヴァンスは51歳。マイルスは65歳。昔のジャズメンは、たいてい短命だった。「音楽に殉ずれば、短命に終わる」という命題。マイケルの死は、まさにこの命題を浮き彫りにしている。

dedicate ≠ exhaust(≒fragile)

殉ずることと疲弊することの関係。単純に生命を何かに捧げれば、自分の資源はゼロとなり、やがて「冷たい死」を待つほかない。殉ずることは美しいけど、一個の人間としての人生を考えた場合、音楽に殉じて若死にするというのは、正しいことなんだろうか? パットはマイケルの死で、このことを考えざるを得なかったはず。まるちょうは、こう想像しちゃうね。マイケルは死の病床でパットにこう伝える「おまえはちゃんと天命をまっとうして、自分の音楽を追究しろ」と。dedicateとexhaustの矛盾を突き破れと。fragile(壊れやすい)ではなく、強く生きろと。

そこで今回の「Unity Band」のコンセプトだ。例のインタビューの中で、しかとこう明記されている。「あらゆる要素を統合(Unify)すること。伝統と革新、過去と現在と未来をね」「スキルだけあっても、自分の人生や存在が投影されていなければ、芸術としての価値はない」と。そこには51歳の時と、まったく違う心象風景があるように思う。「人間には不死はあり得ない」という真理。そこで導き出される「過去も含めて統合する」という姿勢。これは「収束」「整理」「折衷」とも換言できると思う。やみくもに上を目指すのではなく、「自分の限界」を見据えたうえで、なにが最善かを模索すること。

その結果として、今回のコンサートは、とてもバリエーションが広く、肩の力が抜けたパフォーマンスだったと思う。とても楽しめました。特にメンバー四人とのデュオ四連発は、しびれた。アントニオ・サンチェスとのバトルでは、パットはクラシックギターにアンプをつけて、ディストーションばりばりで、これほぼメタルやん(笑)。芸術は爆発じゃ~w ポッターとのバトルは、見事のひとこと。まさに鳥肌ものだった(としか表現できない自分が悔しいw)。

折衷とか収束とか書いちゃったけど(そういう要素があるのは事実)、パットのベクトルは常に前を向いている。大体において、コンサートの始めから終わりまで、ギター弾きっぱなしなんですよ。どれだけdedicateしたら気が済むんですか、あなたは。大好きな「Have You Heard」を聴くことができて、大満足。涙がでて仕方なかった。シアワセ! 最後はパットのバリトンギターソロで締めくくり。あれだけ弾きまくったのに、まだ弾けるか、という感じ。10分以上はあっただろう、長い玄妙なソロで、過去の楽曲が微妙に交錯し、蒸留され、まさに入念の演奏だった。その中で「Last Train Home」のフレーズが入っていたのを、僕は聴き逃さなかった。ああ「気をつけて家路について下さい」という意味なんだな、と腑に落ちた気がした。その直前の「Are You Going With Me?」の激しいギターシンセの絶叫をクールダウンするかのような、ステキな演奏でした。すばらしい一夜をありがとう、パット。長生きして、また日本に来て下さい。以上、コンサートで感じたことを記しました。長くなり、すんません。