魔法・・「女ともだち/柴門ふみ作」より

漫画でBlogのコーナー! お気に入りの短編漫画をネタに、まるちょうなりに語ってみたい。今回は「女ともだち/柴門ふみ作」から「魔法」という作品をピックアップしてみる。簡単に言うと、女性における「キャリアと育児」についての苦悩。まずはあらすじから。

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ピアニストの主人公。二児の母だけど、下の子(エミちゃん)の生育が芳しくない。二歳を過ぎても、ほとんど言葉をしゃべらない。神経過敏で、よく癇癪を起こす。友達もできない。ある時、保育園を訪れた彼女は、エミちゃんの描いた絵を見て愕然とする。画用紙の隅っこに落書きのように描かれた貧弱な線。主人公のお母さんはこれで、これまで頑張ってきたピアニストとしてのキャリアをいったん捨てる決心をする。

それからエミちゃんにつきっきりで、面倒を見るお母さん。上の子(ケンタくん)は五歳で、いつでも元気はつらつ、手のかからない子。ついついケンタくんは放っといて、エミちゃん優先となってしまう。ケンタくんは、それでも特に不平は言わない。「絶対にエミちゃんを立ち直らせてみせる」お母さんの決意は固い。mahou1それでも「弱い者をいじめる時だけ解放されたような表情をする」エミちゃんのことを、我が子ながら眉をひそめる。「子の異常はすべて母親の責任にされる」と感じることが多い。実際、それが元で夫とも諍いあり。

mahou4公園で子供が遊ぶのを、ぼんやり見守るお母さん。なんて退屈なんだろう。私はピアノを弾きたいのよ!弾きたい!弾きたい!☞母の表情におびえるエミちゃん。「いけない! この子はいつも私の顔色に怯えてる」☞その場を取り繕い、さあ帰ろうかとなる。自転車に二人の子を乗せて、帰路に。そこでケンタくんは「おかあさんて、やさしい人だね」とぽつりと言う。「どうして?」「今日公園でボクが遊ぶの見てくれたから。おかあさん、やさしいね」mahou5

お母さんは、そこで初めて気づく。この子もホントはさみしかったんだ。いつも母親の視線を求めていたんだ。お母さんは涙が出るが、自転車をこぎ続ける。ケンタくんに「おかあさん、お腹痛いの? 大丈夫?」と気遣われながら・・

現代に生きる女性にとって「キャリアと育児」というテーマは、悩みの種というか、話し始めるとキリがないという奴だろう。思えば、まるちょうが医大六回生の頃、女子がどの医局に入るか、あれこれ迷っているのを唐変木のように眺めていた。今ならば、その悩み、心配の深さに共感することができる。彼女たちは、ずっとずっと先の「自分の人生の組み立て」を考えていたのだ。当時の阿呆な学生まるちょうは、そんなこと知る由もなかった。

女性が男性と根本的に違うのは、妊娠、出産が可能なこと。そして普通は、育児を主体的に経験すること。もちろん、これらの根底には強力な「母性」がある。今でこそ「イクメン」などの言葉も定着してきた。しかしながら、やはり妊娠と出産は、男性が代わりようがない。キャリアの中断と再開。何人も子供を産めば、それだけキャリアの中断は多くなる。そして必然的に、キャリアアップは遅れる。子供は欲しい、でも自分の社会的な能力も伸ばしたい。この根源的なジレンマ。ふぅ、女性ってホントに大変だね。

mahou3さて、本作の一番のキモは、エミちゃんとケンタくんの対比である。エミちゃんは、おそらく発達障害の傾向がある。それこそ親が「本気」にならなければ、これからの「生きていく上での困難さ」を乗り越えることは出来ない。彼女がコンサート・ピアニストのキャリアをいったん捨てるという英断をしたのは、実に正解だった。一方、ケンタくんは元気そのもの、放っておいても人生を切り開いていくタイプ。親の愛情がエミちゃんに偏ることに対しても、それほど嫉妬心は持っていない。カラッと明るい。

mahou6ラストはうるっとくるね。「おかあさんて、やさしいね」☞創作だからこその言葉だけど・・母親の愛情を要らない、なんて子供は存在しない。エミちゃんはサインを出す。ケンタくんは出さない。でも結局、子供はいつも母親の愛を欲しているのです。その必要性は、等価なのです。「二人とも同じなのだ」という言葉がある。そう、同じなんです。どの子供も母親の愛情が不可欠という意味では同じです。主人公のお母さんは、自分の過ちに気づいて泣きます。「おかあさんは、やさしくなんかない!」と。mahou8ここでの「気づき」が素晴らしい描写だと思う。

総括。育児に関わるということ。育児はまず、賃金の発生する作業ではない。親にとって当たり前のものとして、天から与えられた仕事です。そして子供の生育が悪ければ、すべて親の責任にされる。父親が育児に無関心だったりすると、女性は最悪だよね。ただひとつ確実に言えることがある。育児をすることは、賃金は発生しないけど、親を成長させるということ。子供も成長するけど、親もたくさん学ぶことができる。私事になりますが、息子のダイゴの成長を見守ってきて、いかに勉強になったか。育児はそうした「無形の財産」を、親に与えてくれる。子供とのせめぎ合い、夫婦間の諍い、そうした家庭内のカオスの中で「人格」が形成される。mahou7これは子供だけじゃなく、親の人格もです。そして人格というシロモノは無形である。それが「心の眼」でちゃんと捉えられるかどうか。「損得勘定」などという志の低い人が育児をしたら、それこそ悲惨です。昨今、社会問題になっている「虐待」は、そうした「心の眼」がちゃんと養われていない人々が育児をするから起こる。子どもはたまったもんじゃないよね。

最後に、まるちょうが一番参考になった本を紹介して、終わりにします。「思春期にがんばってる子/明橋大二作」です。明橋先生の著作は、他にもいろいろあります。興味のある方は、ご一読を。育児に関して、良いことがたくさん書いてあります。そうそう、ひろみちおにいさんも言ってましたね。「子どもはぜんぜん、悪くない」(^_^)

以上、漫画でBlogのコーナーでした。