ペイ・フォワード/ミミ・レダー監督

「ペイ・フォワード」(ミミ・レダー監督)を観た。独身時代に家族の会話で「映画館で泣いたこと」が話題になった時、私は「I Am Sam」で泣いたと言った。それに対して兄は「そんなんで泣くんか?理解できん!俺は『ペイ・フォワード』で泣いたぞ」と発言した。当時すでにお蝶夫人♪と付き合っていたので、このことを彼女に伝えると、いち早くDVDで観て「よい作品だったよ」と言ってくれた。それ以来、観ようと思えばいつでも観れたんだけど、今になってしまった。

結局私はこの作品を見て泣かなかった。「泣きのツボ」は人により違う。だから、それはそんなに気にすることではない。でも、面白い観点を呈示していると思った。11歳の少年トレバーが、学校で次のような課題を出題される。

Think of an idea to change our World
——and put it into ACTION!

この課題を出すのが、ケビン・スペイシー演じる社会科教師シモネット。過去に深い心身の傷を負った孤独な役柄。押しも押されもせぬオスカー俳優である彼は、ここでもよい仕事をしている。それは置いといて、トレバーの捻り出した答えは、以下のような単純明快な構想であった。

人は他人から厚意を受けた場合、その相手にお返しをしようとする(pay it back)。そうすると、その厚意は当事者間のみで完結して終わってしまう。しかし、この「厚意」を受けた相手に返すのではなくて、次の人に別な形で渡してみたら(pay it foward)どうなるだろうか?。それを、1人の人が別の新たな3人に渡したらどうなるか?

この「シンプルで難しい思想」を軸に、物語は進行する。もちろん現実に実行することは、とても難しい。でも監督が音声解説の中で「“possible”はこの映画のまさにキーワードです。私が本作を撮ったのも、誰もが世界を変えられると思うから」と述べているのがとても印象的だった。

トレバー少年には父がいない。DVで家庭をめちゃめちゃにして家を出て行った。残された母もアルコール依存症。少年は「Everything sucks」と思っている。sucksとは「失望、失敗」の意。要するに「世の中はお先真っ暗、くそくらえ」ということ。普通の11歳の少年なら、ここでぐれちゃうんだけど、彼は違う。どこかで世の中を、あるいは人を信じてるんだね。悪意よりは善意を信じている。そんな姿勢は、ハーレイ・ジョエル・オスメント少年にピッタリの役どころだ。トレバー少年の「人の善意に基づいた理論」は、彼自身には失敗に思えたが、いつの間にか全米をまわりまわって、望外の成果を彼に伝えるところとなる。ネタバレになるので、これ以上は言わないけれど。予告編の映像を見つけたので載せておきます。



この思想の一番重要な点は「自分が世界を変えることが可能と思えること」である。閉鎖的な悲観論は、この思想とは相容れない。「可能性を信じて行動に移すこと」・・これがキモ。西川きよしじゃないけど「小さなことからこつこつと」。始まりは小さくてよい。それがやがて大きな波となることを願って「pay it foward」することから全てが始まるのだ。「善意を次に渡す」という思考と行動が世の中に広まったら、どんなによいだろう! そんな愚直な楽観主義の必要性を、この作品に教えられたような気がした。

以上「ペイ・フォワード」の感想を記しました。