口の中の不快感で悩む高齢女性(まるちょう診療録より)

80代の女性で、不定愁訴の多い方。七年前に夫が急逝されて、うつ病となり入院歴あり。なんでこの人を診ているのか、よく分からないことがある。この方の場合、さまざまな苦痛やしんどさを傾聴しておればよい。便秘があるので下剤くらいは出すけど、多くの場合、お話を聴いて、それで納得されて退室される。

2021年の11月ごろから、昼過ぎから頭が痛くなる、歯の間にものが挟まる感じ、歯の全体が痛い、歯が浮いたような感じあり。頭部MRIは10月に他院ですみ、問題なし。とりあえず、C病院の口腔外科で診てもらいましょうか。

歯肉に膿が少しあったので、抗菌剤を出された。でも歯肉炎?つづく。口腔外科のDrには降圧剤が影響しているのでは?と言われた。ニフェジピンをアジルバに変更。

口腔内の違和感はつづく。昼以降、うずくような感じで、イライラする。降圧剤は関係ないです。口腔内のことに執着される。加味逍遙散ためす。その後、RC病院の口腔外科も受診。問題ないとの回答。口腔内神経症? 加味逍遙散はある程度は効いている。

2022年の5月。口腔外科を二軒回ったし、CTも撮ったけど、原因が分からない。口腔内の違和感は、やはり精神的なことではないか? いや、どうしても気になる。総入れ歯にしようかとさえ思います。食欲落ちている、体重が減る。同時期に、右の乳房に初期の癌が見つかる。これは根治手術でき、OK。

さて、ちょうどその頃、総合内科のエキスパート、生坂政臣先生の本を再読していた。「見逃し症例から学ぶ日常診療のピットフォール」という本。本書は、僕にとって宝物のような書物なのです。自炊して整理したつもりが、紛失していた。なのでもう一度、取り寄せて目を通していた。その中で「Burning mouth syndrome」というコラムを見つけた。

この患者さんに、ほぼピタリと当てはまると思った。不安障害はややあるんだけど、まあ特発性でいいんじゃないか? 器質的な病変のない口腔内灼熱感。これを説明して、初めは「ポカン」とされていたが、何回かの折衝のあと、投薬について同意された。つまり、クロナゼパム(商品名 リボトリール)をごく少量から開始(一日0.5mg)。

後日、効果について訊くと、不快感が10 → 5に減った、とのこと。ただし、飲むのがちょっと怖いので、連日は飲んでいない。不快感が出た時のみ、頓服で飲んでいます、と。何より良かったのは、長い間くるしめられてきた不快感に「病名」がついたということだろう。腑に落ちるというやつ。自分の中で、症状に整理がついたこと。全快とは行かないけど、とても喜ばれた症例です。以上、まるちょう診療録より語りました。