フェロモンについて考えてみた

ちょっと昔のアエラの記事から。

フェロモンはカイコガで初めて見つかった。体の外に分泌され、同種のほかの個体に特定の行動や内分泌変化を起こすものと定義される。カイコガのオスはフェロモンに誘われて、数キロ離れたメスまでたどり着くという。しかし、である。われらヒトにおいては、こうしたフェロモンの存在を確認できていない。一説では「におい」が、別の人に何らかの影響をもたらしている可能性もあるという。しかしそれも、確かには実証されていないようだ。



脳科学で使われる「フェロモン」という術語と、コスメ方面(モテるモテないみたいな)での「フェロモン」では、内容的にかなり乖離があるようだ。実際にフェロモンビジネスとして展開しているサイトも結構あるし。例えば、フェロモンスプレーとかね。ま、こういう眉唾は置いといて・・ ここではちょっと「フェロモン」の定義をゆるめてみたい。つまり「異性を惹きつけるなにか」という定義。生理活性物質に限定せず、もっと大きな枠組みで語ってみたいのです。


さて、ひとつ仮説を呈示したいと思う。仮説? いやこれは、妄想に近い。ま、おやじの戯れ言として聞いてくださいよ。カイコガとヒトの大きな違いは「異性を惹きつける」シグナルの送受信の方法が、格段に、それこそ目がくらむほどに複雑化していること。例えば、カイコガの神経細胞は約10万個。それに対してヒトの脳には、ざっと一千億個の神経細胞がある。脳科学で「におい」がフェロモンの可能性としていちばん近いというが、おいらは「どうかな?」と思っている。

嗅覚は一番ふるい脳神経だけど、やはり「視覚」の効果はフェロモンの話をする場合、外せないと思うんだな。女子だったら、やはりバスト、ヒップ、脚。男子だったら、厚い胸板、前腕の筋肉、頚部の胸鎖乳突筋。こういうのを見て、異性は「感じる」んだな。このとき生理学的には、なんらかの内分泌的変化が起きているはずだ。ユーミンも次のように歌っている。

波打ち際をうまく 濡れぬように歩くあなた

まるでわたしの恋を 注意深くかわすように

きついズックのかかと ふんでわたし前をゆけば

あなたは素足を見て ほんの少し感じるかも

(天気雨/松任谷由実作)


これも視覚による刺激を表現している。この歌詞に象徴される世界観は、ちょっと興味深い。異性を「感じさせる」という姿勢から、恋愛における戦略が生まれる。この「駆け引き」という戦略を楽しめる人は、幸いなるかな。恋愛体質、おめでとう。青春を上手に料理して召し上がれ! ・・おいらはこういうの、苦手だけどね。駆け引きとか、もう全然だめだし。

女性の化粧は、まさに「戦略」だよね。化粧の上手な女は、要注意である。つまり戦略性の強い人間という意味で。個人的には「視覚的なフェロモン」と言っていいんじゃないかと。男性を惹きつけるのみならず、わざと下手くそに化粧して、遠ざけることもできる。合コンという「戦場」では、女性はこうした「仕込み」をぬかりなくやって、決戦(ドリカム的には金曜)に備えるのだ。こわいこわーい。

ゴリラなどのメスは、お尻を赤くして排卵期を知らせ、オスは視覚でこの情報を受け取る。ヒトはこの情報すらなく、女性は排卵期を隠している。いつでも排卵期にあると見せかけ、男性を引き留め、常に子育てに参加させることになったという説がある。「いつでも排卵期」という嘘。これ嘘だけど、ちょっと痛々しい気もする。だって月経のときに排卵期のふりをするって、けっこう辛いんじゃないかな。「けなげ」と言えなくもない。ただ、この嘘でヒトの男女関係は気が遠くなるほど複雑怪奇になってしまった。

漫画の「課長 島耕作/弘兼憲史作」ってあるでしょ? 主人公の島耕作には、女が次から次へ寄ってくる。島耕作は、なんらかのフェロモンを出しているのだろうか? おいらはずっとこの謎について考えていたんだ。ある時、Twitterを眺めていたら「山田詠美bot」のアカウントから、次のようなつぶやきが流れてきた。

誠実じゃない男って魅力的じゃないって解って来るでしょ、大人になると。誠実とセクシーって同義語だよね。



これでハッとなったね。そうだ、島耕作のフェロモンは「誠実さ」だったんだ。もっと言うと、公平さ、一貫性、謙虚さ・・かな。これはいわば「前頭葉に訴えるフェロモン」ということになるか。脳神経をずっと超えて、高次の脳知覚に訴えるフェロモンである。ただこのフェロモンには、一つ弱点があると思う。つまり、その人格とある程度の距離が保たれないと、効力が消えてしまうことだ。じっさい島耕作についても、奥様とは冷え切っていて、けっきょく離婚してしまう。島耕作って、大町久美子と再婚したの? 彼にとっては、そこは文字通り「墓場」だと思うけどな。彼はボヘミアンであってこそ、そのフェロモンを自在に操れるのである。以上「フェロモン」について、とりとめなく語ってみました。あしからず。