ねぇ、マリモ

YouTubeを語るコーナー! 今回は11分の短編映画「ねぇ、マリモ」について語りたい。YouTubeとしては、やや長めの映像だけど、きっと見る価値はあります。ただし、現在ペットを飼われている方は、若干用心して下さい。もちろん爽やかにまとめてあるので、心配ないと思うけど・・ 05年に「いぬのえいが」という11の短編からなるオムニバス映画が公開された。ワンコ好きにはたまらない映画で、DVDもちゃんと出てます。「ねぇ、マリモ」はその中の一編で、原作は絵本のようだ。主演は今をときめく宮崎あおいさん。



さて、この短編映画のベースには、ひとつの動かし難い「宿命」がある。それは「ペットは飼い主より早く成長して、その分早く死ぬ」ということ。つまりペットを飼うと、必然的にいつかは「可愛いペットの死」を迎えることになる。長年連れ添って愛してきたペットほど、死んでしまった時の悲しみや喪失感は強い。これを専門的には「ペットロス」という。

本作の面白い点は、後半部分。つまり「ペットから飼い主へのメッセージ」である。この意外性が、ペット愛好者の急所を一撃する筈だ。ペットの死で飼い主は「充分にしてやれなかった」との罪悪感を持つことがあるようだ。これは近親者の死の場合でも同じこと。だから本作の最後で、マリモが「愛してくれてありがとう」と伝える場面で、視聴者の魂は救われる。このケースは、幼少時から連れ添った犬の話。相当な「ペットロス」はあった筈だ。でもラストシーンで美香が、懐かしい海を眺めながら「私、また犬が飼いたい」と想うシーンは、素敵な締めくくりだと思う。マリモの死を乗り越えた瞬間ですね。音声を最小限にして、優しい音楽(とても好き)を背景に、簡潔で意外性あり、涙なしでは観れない。でもあくまでも爽やかな涙。

さてここで、ちょっと私の外来での経験をお話しさせてもらいます。私の総合内科外来に60代半ばの女性が訪れた。主訴は「倦怠感と体を動かした時の微熱、体重減少、不眠」。その他にも肩のこわばりとか上肢のしびれ感など多彩。昨年暮れに経営していた居酒屋を閉店して、独り暮らししているとのこと。ヘビースモーカー、アルコールも一日水割り10杯くらいは飲む。不眠は既に精神科で眠剤の投与がされていたが、あまり奏効していない。

まずは微熱が気になったので、感染症や膠原病除外を主な目的に、やや多項目にわたり採血。しかし、全く異常なし。他、レ線だのMRだの、いろいろ調べるも、何も引っかかってこない。本人様も「今日こそは何か病名が付くと期待していたのに」と残念がられる。五回目くらいの診察のときだっただろうか、丁寧に話を聴いていると、ようやく真相を話された。つまり、昨年9月にずっと飼っていた二匹の犬が死んだとのこと。それ以来、毎日がとても辛いんだけど、60代半ばで独り暮らしの自分には、また新たにペットを飼う資格はないと決め込んでいる。最悪自分が死んでペットが取り残されるのは、どうしても避けたいからと。でも、心のうちを私に吐露することにより、かなり気持ちは軽くなったようだった。その目はかなり潤んでいた。

結局その症例は、重症のペットロスだった。平均寿命が80歳を越える昨今、まだまだ「ペットを飼う資格」なんて考えなくてもいいんじゃないか。いくらでもやり方はあるでしょうなどと、アドバイスしておいた。それ以後は精神科でのフォローアップということで、一件落着。私の外来にも、いつでも来て下さいと話しておいた。

総括。ペットは愛すれば愛するほど、重要な家族の一員となりうる。しかし、いつか別れが来ることを忘れないこと。できるだけペット仲間がいる方がよい。独り暮らしの場合は尚更。マリモは美香と両親に愛されて、幸せな一生だった。マリモの死を乗り越えた美香の心には、マリモへの感謝の気持ちが溢れているに違いない。

以上、「YouTubeを語る」のコーナーでした。