浮浪雲選集(親子編)

新コーナー!「この漫画を読んで」。お気に入りの漫画について、思うままに語りたい。第一回は、「浮浪雲選集(親子編)」(ジョージ秋山著)です。「浮浪雲(はぐれぐも)」は、すごく長く続いている大人向けの漫画で、この選集はその膨大な数の作品から作者が選りすぐったもの。「親子編」「夫婦編」「愛情編」とあり、今回は「親子編」を取り上げる。

以前「人生論ノート」という堅い書物を「二十代のバイブル」なんて言ったんだけど、実はこの「浮浪雲選集三部作」は、三十代のバイブルなのです。それほど含蓄のある漫画なんだな、これが。具体的には、夫とか父とかいうポジジョンを、どういう姿勢で乗り切ったらよいのかを、たんと教えてもらったわけ。とりわけ、主人公の浮浪(はぐれ)が秀逸。品川宿の問屋場「夢屋」の頭で、何物にも束縛されない自由な精神を持つ人。こんな夫あるいは父親になれたらいいなぁ~、と常々思っている。

二つの話を取り上げる。まずは「草笛の丘」という一編。浮浪の息子新之助は、最近なんかやる気がない。勉強も遊びも中途半端。家でゴロゴロばかり。母のおカメは、そんな我が子を見て、情けなく思っている。そんな中、浮浪は新之助に「海の水平線を毎日見るように」と指導する。初めは、何のことかよく分からない新之助。そしてある日、浮浪は新之助を小舟に乗せて沖へ出る。新之助は、水平線を端から端まで見て、やがて「水平線はまるい」ということに気付く。そしてできたのが、次のような作文。

この作文を教師から渡されて、おカメが誰も見ていない部屋で「わたしの・・わたしの産んだ子が・・」と崩れて泣く場面は、とてもよい。

子どもに「なにか大きなものを見せる」ということ・・大事ですよねぇ。つまり、この世には目に見えないなにか大きいものがあるのだ、ということを体感させることです。登場人物の一人である渋沢老人曰く「それに気づかない人間は駄目です」と。こういうのは、学校では教えてくれないからねぇ。浮浪のような、おおらかな父っていいな。小さいことに拘らないというか。現実には、すごく難しいんだけど(笑)。

次に「直立不動」という一編。思春期にさしかかり、そろそろセックスに対する関心が芽生えてきた新之助。父浮浪から、お父さんとお母さんもちゃんと愛し合っているということを風呂場で聞いて以来、母おカメのことが不潔に思えてならない。母を軽蔑の目で見て、反抗の態度を見せる新之助。あまりのふてぶてしさに、おカメも新之助を叩いてしまう。そんな中、新之助が流行病にかかる。高熱に苦しむ新之助。流行病なので、医者はあまりにも忙しく全然つかまらない。そこへ川崎にいた浮浪から「家庭医学大全」という本が届く。その本には、とりあえず便を出すことと書いてある。おカメが手を尽くすが、なかなか便は出てくれない。そこでおカメが取った行動とは・・新之助の肛門に口を付けて便を吸い出したのだ。便が出た!顔じゅうウンコまみれで笑顔のおカメ。「あっはははお花ちゃん、出たわよ!」新之助がすっかり体調回復した後、一休みして横になっているおカメに、そっと抱きつく。はらはらと流れる涙。

この一編は、母のたくましさを如実に描いている。「母の一念 岩をも通す」である。おカメみたいな母って、やっぱ理想的だな。ウンコを吸い出すことに関して、全然ためらいがないし、その後も「あんなの当然」てな感じで、まったくてらいがない。世のお母さんに、これを真似ろとは言わないけど、一読はして欲しいです。

この「浮浪雲選集」は、再読に足る漫画です。これからも、折に触れ読み返すつもり。「夫婦編」と「愛情編」は、また機会があれば、紹介しますね♪