若年者の本格的な病気は、やはり緊張する。本人さんは、それほど重病のつもりで受診しておられない。そこへ、癌だの膠原病だの感染症だの、わけのわからない本格的な病を告知される。そりゃ、誰だって混乱するよ。説明するこっちだって、気を遣い、緊張する。この「現場の緊張感」は、体験した人間にしか、分からないだろう。
20代後半の男性。主訴は発熱と全身倦怠感。熱は38度後半の熱。まず、発熱外来を受診され、コロナ抗原は陰性。PCRも希望されたが、これも陰性。その後、熱は下がったが、腹痛あり。下痢もあったが、今は普通便に戻っている。
初診からほぼ10日後に、僕の外来を受診された。まだ38度台の熱あり、下痢や悪寒もある。仕事は作業療法士だが、行けていない。体幹部に環状紅斑散在。食欲はやや落ちている。まだ採血はしていなかったので、とりあえず採血。何らかの感染症か?
採血では、CRP7台、白血球増多なし。肺炎や尿路感染を否定したいので、胸腹部CTと尿検査を追加。尿はNP。胸腹部CTは、やや脾臓が大きいように思えた。伝染性単核球症など?(EBVやサイトメガロ) 先ほどのCBCでは、異形リンパ出ていないし、あまり自信のある見立てではない。とりあえず青年には、ウイルス感染疑いとの説明で、六日後の再診予定を入れる。EBVとサイトメガロの抗体価を調べておく。
さて、再診にて。EBVとサイトメガロの抗体価では、EBVは既感染、サイトメガロは感染なしのパターンであった。だから、伝染性単核球症は遠くなる。一方、前回の胸腹部CTの正式所見は「回盲部に壁肥厚ならびに周囲リンパ節腫大が目立ちます。感染性腸炎など炎症のほか、悪性リンパ腫など腫瘍の除外を要します」との記載あり。さすが、放射線科の先生、すごい。
この辺りから、青年の緊張がヒシヒシと伝わってきた。なかなか頭脳明晰な人である。件の胸腹部CTの所見を「もう一度見せてください」と言われ、所見をメモされていた。混乱する場面で、冷静な行動。「悪性リンパ腫など腫瘍の除外を要します」の一文が、おそらくガツンと響いたと思われる。その青年は、腫瘍マーカーのチェックを希望された。確かに。 CEAとC A19-9、可溶性IL2レセプターをオーダー。
と、ここまで普通に描写しているが、実はこの前日にうつ状態で一日寝ている。認知力は低下しており、ひとつひとつの行動が、スムースでない。青年の緊張を考えると、手も震えてくる。本日の採血の結果が出た。CRPは5台で、それほど下がらず。マクロに考えると、約三週間続く発熱であり、フォーカスは回盲部である。僕は個人的には、悪性腫瘍(大腸癌、悪性リンパ腫)を心配していた。(ただし、右下腹部の症状は、ほとんどないのだ)
回転しない脳みそで、青年に伝えた。「これは、大腸カメラしないと、何にも始まらない。大腸カメラがいちばん大事な検査です。腫瘍マーカーよりも、はるかに大事。必ず受けてほしいし、できるだけ早い方がいい」 初めはやや懐疑的だった青年だが、結局CFをすることに同意された。
さて、C病院で実施されたCFの結果。「回腸末端に縦走潰瘍をskipして認める。クローン病(小腸大腸型)疑い」との診断だった。悪性腫瘍よりはいいが、この青年にはこれから長い「病との付き合い」が始まる。自分の診断プロセスとしては、ウイルス感染疑いから胸腹部CTの「広い視野」に戻れたことが勝因だったか。いつも言うけど、T診療所の強味は、CTを撮影できること、そして放射線科医による読影が付くこと。おそらく普通の内科クリニックでは、診断にもっと時間がかかったはず。クローン病という診断がついたけど、なんとか頑張ってほしいと思います。以上、まるちょう診療録より、文章こさえてみました。