縁談–「女ともだち」から

「漫画でBlog」の二回目。今回は「女ともだち」(柴門ふみ作)から、「縁談」という短編をモチーフに語ってみたい。「女ともだち」という短編集は、女性独特の深層心理に踏み込んで描いてある。まるちょうが20代で失恋した時、「女心」を勉強しようとして読み耽った漫画です。そうして単なる唐変木から、成熟した男性へと変化して行った。「縁談」という短編は「女性の結婚観」を上手く描いた作品です。まず、簡単にあらすじを記す。

主人公は達子という結婚をやや焦っている短大卒の女性。設定としては20代半ばと思われる。 同期生の敦子はすでに結婚して一児の母。 同窓生名簿では、20人中8人がすでに結婚。旧姓石橋さんは、石橋という同姓の男性と結婚したので、わざわざ石橋(石橋)と記してご丁寧に既婚を知らせてある。

かっこでくくられた旧姓の数が私をせっついてくる。おいていく、おいていくぞと警鐘をたたきながら

 

そんな中、達子は見合いの日々。今回は北大出のメガネの白ブタ。証券会社勤務で27歳、趣味は将棋。そんなときめかない現在だが、学生時代は水田くんという素敵な恋人がいた。でも、お互いの押しの弱さで別れてしまった。その頃を思い浮かべると今も「うふふ~」となってしまう。

別に美人でもないし、格別の才能もないし、あたしなんか・・白ブタとときめきのない結婚でもいいかなと思っちゃう。いちばん美しい季節は、終わったのよ。自分にそう言いきかせて・・

そう割り切っている一方で、敦子宅でボーっとした顔で夕暮れをずっと眺める達子。敦子曰く「余裕のない女は、あんな風に寝ぼけた顔見せないよ」と。達子同意して曰く「胸さわぎの夕暮れなど、ふと風にのって王子様があらわれるような気がして・・思わず口を開けて待ってしまったわ」と。なんだかんだ言っても、まだどこかで夢見ている部分があるのだ。

結局北大出の白ブタからは断りの連絡が入る。自己暗示が効いて好きになりかかっていた達子は、怒り憎しみがこみ上げるが、母は淡々としたもの。むしろ、見合い結婚の母の方が「まだ知らぬ恋を憧れる少女のように」、他のたくさんの見合い写真を見てはしゃぐのであった。

以上のように、取り立てて筋のない短編である。しかし「女性の結婚に対する考え方」を、とても鋭く表現していると思う。冒頭の同期生名簿の描写なんて、「そんなもんか~」なんて感心してしまった。男性はそこまで気にしないと思う。女性の方が「先を越された!」感があるんだろうね。そうした女性同士の熾烈な競争の一方で、やはり根源的に「口をぽかんと開けて王子様を待ってしまう」という一面もあるわけ。一番象徴的なのがラストシーン。結婚して一児をもうけている敦子でさえ、夕暮れに口を開けてボーッとしている。


このやり取りが、男性と女性の差異を如実に表していて面白い。男女の結婚観の相違が、見事に結晶しているというか。一般に男性は結婚に「安定」を求める。女性は「変化」を求める。こんなのどうですか? 「王子様」というのは、まるちょう的に言うと「変化」の象徴である。でもこれ、明らかに矛盾なんだよね。作中で敦子が言うように「結婚生活は恋の緩慢な死」である。これ、柴門さん一流の決め言葉。女性の心理を鋭くえぐるひとことです。でも実際、ある意味結婚生活は収束して行くものである。だから「安定」を求めるというのは合理的ですね。しかし、である。それだけでは結婚生活の継続はままならないというのも事実です。どこかに「変化」の隠し味がないと、結婚生活は持たない。「夕風にのって自分の旦那がやってくる」的な(笑)。要するに「安定」と「変化」の矛盾を保ちながら、いかに続けるかが、結婚生活の醍醐味なんだろうと思うが、いかがでしょう?

以上、「縁談」という短編をモチーフに語ってみました。